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奈良県在住。日々のログとして書くことにします。

無縁坂、そして、鴎外・・・

夕立も止んで、虫の音が時々聞こえてきます。

 

ブックオフで『鴎外の坂』を見つけました。

 

中公文庫からの再文庫版です。

 

買い直したかったので早速購入。

 

毎日少しづつ、森まゆみが書く「鴎外」の世界を楽しんでいます。

 

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著者は、東京都文京区に生まれ。

 

早稲田の政経を卒業し、地域雑誌『谷中・根津・千駄木』の編集人として活躍。

 

1997年この作品で、芸術選奨文部大臣新人賞に選ばれています。

 

環境・地域文化・都市論等で卓越した論を展開中。

 

彼女は鴎外が自分の生まれた文京区で暮らし、姓も同じ「森」だったことから

 

山椒大夫」で魅了され、「舞姫」は繰り返し読み、

 

親愛と敬慕を募らせたと書いています。

 

 最初この本を読んだとき、仲間を見つけた思いでした。

 

 

内容は・・・・・・

 

プロローグ 『青年』が歩く

 

第一章 向島の家 喜美子の眼

 

第二章 宿場の医者 千住 橘井堂医院のこと

 

第三章 わが旧妻なり 赤松登志子のこと

 

第四章 千朶山房   太田の原の家

 

第五章 君に見せたきものあらば 三木竹二

 

第六章 市隠の居処 団子坂観潮楼

 

第七章 無縁坂の女 玉とせき

 

第八章 二つの家 しげのこと

 

第九章 耀く日々 子どもたちの地図

 

微笑みの人 鴎外

 

という構成で書かれています。

 

鴎外に関しては、山崎正和の『鴎外 闘う家長』を筆頭に、「論争する文学者」「出世

 

を争う官僚」など彼の一面に光を当てた論文が多数出ています。

 

 

著者は違った視点から筆を進めてゆきます。

 

鴎外その人を描くよりも、鴎外の側にいた、共に暮らした家族に光を当て

 

ることによって、鴎外にも反射させようと考えた(中略)とりわけ従来、教

 

育ママとされる峰、悪妻とされるしげ、路頭の花のようにうつりがちな”エ

 

リス”、児玉せきらに対しては、それぞれの立場に心を寄せて描いたつもり

 

である。彼女たちの抱えた問題は私の問題である。(以下略)

 

『鴎外の坂』中公文庫 P424

 

 

 筆者が挫折と栄光の坂を誠実に上り下りした鴎外を書き進めるうちに

 

たどり着いたのは、家族や近親者との生活の中で、”いま”という時を大事にし、

 

”日常への眼”を大切した当時では数少ない男性。

 

それが鴎外だという事実でした。

 

そんな鴎外が家族や近親者に残した印象は「微笑の人」鴎外・・・・・・・・

 

 

このように鴎外を評した人は森まゆみが最初だと思います。

 

 

 

 

私は、なぜ鴎外が『雁』を書いたのか長い間謎でした。

 

高利貸しとお妾の間に大学生が入り込む設定ですからね。・・・・

 

舞姫』ならまだなじめますが・・・・

 

 

 

第七章 無縁坂の女 玉とせきを読んで、謎が解けました。

 

 

先妻と離婚してから再婚するまでのほぼ10年間を、無縁坂に住む児玉せきという女性

 

と過ごしています。

 

愛人関係とも事実婚ともいえぬ不思議な関係でした。

 

再婚でこの関係は終わりを告げます。

 

その後、鴎外は『雁』を書くのです・・・・・

 

一度きりの人生をそのような関係でしか生きることが出来なかった鴎外が

 

児玉せきと過ごした日々の中での出来事や想いを正直に書き記したのでしょうね。

 

文豪でもなく、軍医のトップというエリートでもない。

 

平凡な男としての鴎外の心が読み取れて、身近な人という思いが強くなりました。

 

 

 

鴎外は晩年『渋江抽斎』などの歴史物を書きます。

 

だれが、こんな小説を読むのだろうと思ってしまうのですが、

 

小林秀雄によれば鴎外が予定している理想的読者を想像することは

 

かなり難しいようです。

 

『雁』で鴎外に親しみを感じる事が出来るようになっただけでも

 

いいのかな。・・

 

でも、ずいぶん年を重ねてしまいました。

 

30代 40代 50代 耳順 年を重ねるにつれ、作品の印象は姿を変えます。

 

それが『私の古典』になるのでしょう。・・・

 

 

『雁』のような良い作品に出会いたいですね。・・・

 

 

では・・・・・

 

 

おやすみなさい。・・・